2024年3月にヒルトン広島で行われた広島市とヴェネツィア市の姉妹都市締結記念式典で使用するポップアップカード(飛び出すカード)の制作を、セキセイ興産が手がけました。
カードの内容は式典を記念した3種類のMartiniを使ったカクテルを紹介するもの。
オーダーメイドアルバムやバインダー、ファイルを手がけてきたセキセイ興産。
これまでとは勝手の違うポップアップカード制作への想いを、
今回依頼をしてくださったクリエイティブエージェンシーYL Projectsの玉田曜一郎さん、アイザワ ディーンさん、伊藤樹里さんを交えながら、弊社吉田・松倉が語ります。
手にしたときの高級感。目をつけたのは、
普段の事務仕事で使う意外なあの紙。
吉田:クリエイティブエージェンシーであるYLさんから最初に伺った要望は“カクテルを飛び出す絵本のようなポップアップで表現したい”、国際的記念式典で使うものなので“プレミアム感のあるカードにしたい”というもの。それ以外は何も決まっていませんでした。
松倉:当初は卒業アルバムのような背表紙のある上製本という手法で高級感を出してみてはどうかという意見を、クライアント様からいただいたのですが、予算やスケジュール、4〜6ページという枚数の少なさなどから断念。現実的なカード型の形状に決まりました。
しかし単に紙を折っただけではペラペラで上質感を演出することができません。布や透過性のあるトレーシングペーパー、ダンボールに近い紙など様々な素材を試して検討を進めていきましたが、どれも決め手に欠けました。
吉田:そこで少し発想を変えてみたんです。誰もが一度は見かけたことがあるかと思われる事務用品の、Zファイルと呼ばれるバインダーに使われる厚紙”KTボード”を使用するというアイデアでした。
この紙を表紙として使うことでしっかりとした厚みと重量が生まれ、高級感を醸成できたんです。さらに表紙まわりに黒の箔押しで文字や装飾を施すことで、簡素な印象を払拭。普段事務作業で使われるバインダーの厚紙とは思えない仕上がりになりました。
松倉:黒で箔押しされた表紙の細い線ですが、ここまでの細さは、業界ではなかなか求められません。プレミアム感を出すために線の細さや再現には相当こだわりました。
吉田:余談ですが、このような用途で使う方法があったのか!と、この紙のメーカーである株式会社竹尾の定例会で経営層の方に紹介していただいた、とのお話を伺っています。
加工や製本、紙に対する知見があるから、
品質を担保できる。
YL:今回セキセイ興産さんに声をかけたのには理由があります。普段WEBサイトなどのデジタルデザインを得意としている私たちですが、紙に関する知見はあまりなかったので、今回は、印刷や加工・製本のプロに入ってもらおうと相談したところから始まりました。
吉田:確かに加工が必要なポップアップカードと、アルバムやファイルといった立体的なプロダクトには共通する点が数多くありますね。
製本や加工というのは機械を使って簡単に行われているように思われがちなのですが、実は製本や加工の方法はたくさんありますし、使う素材によって様々な制約があるので、とても奥深いんです。
あまたある紙それぞれの性質や特長の把握、立体化したときの強度など幅広い知見が必要。紙や加工技術は日々進化していますので、普段から新しい情報に目を光らせています。
松倉:今回のケースでは、飛び出すカクテルのイラスト部分の強度にとても気を配りました。当初はカクテルのイラストの裏を2ヶ所で留めることも検討していたのですが、そうするとイラストの部分を塞いでしまうことに。
そこで1点留めにして、代わりにカクテル下の接合部分の幅を広く描いてもらい、土台をしっかりさせることで強度を保つよう構造変更しました。
吉田:つくることになった経緯や使われる場面などを常に考えて制作していますね。紙は、加工して時間が経てば少なからず変化していきます。なので、納品をして終わりではなく、その先、手にとったひとがベストな状態で楽しんで使ってもらえることを考えて制作しています。
今回はポップアップカードなので、シャンパングラスの持ち手の一番細い部分が、納品後時間が経ってもちゃんと立ち上がるかどうかを何度も検証しました。こういったことができるのは、紙や加工に関するノウハウがたくさんあるからこそ。その他にも折り目部分の表面が割れてしまわないかなど、細かい品質へのこだわりがこのカードのそこかしこに詰まっています。
大切にしているのは、お客様とのやりとり。
私たちと一緒になってワクワクしてほしい。
YL:あとおふたりとも、お客様にわかりやすく伝えることに長けている点もありがたいですね。クライアントへの説明が複雑な、構造の細かい部分の話になったときに6種類のモック(模型)を持って、クライアントとの会議に参加してくれたときは助かりました。
松倉:わかりやすく伝えるという意味で心がけているのは、専門用語を使いすぎないことですね。そしてできるだけ具体的にモノで見せることも意識しています。
今回もそうですが、依頼いただいたときにお客様の頭の中でイメージが固まっていないことが多いので、できるだけモックをつくってお見せするようにしているんです。そうすることで質感や見え方のイメージを共有できるようにしています。
吉田:メーカーとして責任をもって完成した商品を提供したいという気持ちがあるので、お客様のこだわりたいポイントにできる限り寄り添いつつも、構造上壊れやすくなったり、商品として不備があるものにならないよう、完成イメージを可能な限り明確に持っていただきたいという想いもあります。
その結果、今回は事前に共有したイメージと、完成したものにほとんど差がない“イメージ通りの商品”を納品することができました。
松倉:あと選択を迷わせない、選択を委ねすぎないことも意識しています。例えば紙を選んでいただくときにも、ある程度選びやすいよう選択肢を絞って提案をしています。クライアントの方々にも、ものづくりの楽しさを知ってもらいたい、ワクワクしてもらいたいんですよね。選ぶことも含めて制作していく工程自体を一緒に楽しんでほしいんです。
紙も工作も大好き。新しいことをしたい。
小さなころから変わらない、私たちらしさ。
松倉:今回のオーダーを最初に聞いたときに感じたことは、今までやったことがないことだったので面白そうだという印象。ただイメージが固まっていない状態で話がきたので完成形が想像できませんでした。実際、全体がみえるまでに相当時間がかかりましたね。
吉田:ポップアップカードをつくるというのは、アルバムやファイルをメインの仕事としてきた私たちにとっては挑戦でした。けれどもその分野で培ってきた加工や箔押しの経験を活かせるので、自信はありました。
オートマティックな大量印刷ではできない、オリジナリティある印刷や加工のニーズに応えられるのがセキセイ興産の強みだと思うので、それらを活かした、例えば名刺やア—トブックなどといったこれまで手がけてこなかった印刷物にチャレンジしていきたいですね。
松倉:私たちは2人とも紙や加工への探究心が強くあるかもしれません。世界中には様々な色や質感、原料の紙があって学びがいがありますし、紙のサステナビリティ性もすごく好き。
平面の紙が加工により立体的な構造物として生まれ変わっていく過程も楽しいです。紙や工作が好きなのは小学生のころから。ダンボールの質感がすごく好きで、ダンボールを使ってよく工作をしていました。紙や工作が本能的に好きなんだと思います。
吉田:私はトイレットペーパーを使ってお寿司をつくっている子どもでしたね。探究心といった点で見れば、常日頃から製紙メーカーや印刷会社の方々と交流をして紙や印刷、加工の知識を蓄えるようにしています。技術も日進月歩なので、これからも紙や印刷、加工手法に対して研究熱心でありたいですね。
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